【撮影・文】河合竜也
凡庸な静物の林檎を撮影して画像処理によって加工を施しました。視覚的な「林檎の変種」（変成）イメージを生み出した作品は、人間活動の根源である遊戯をテーマにした「コンテンポラリーアートとしての写真」に接近した表現なのです。
１９９４年イギリス人キュレーターのシャーロット・コットン（１９７０～）は『現代写真論』を刊行、そのなかで１９９０年代初頭から起こる写真のデジタル化が導く変革・現象を「コンテンポラリーアートとしての写真」という言葉でグローバルに拡散しています。
芸術と技術は通底するものがあります。テクノロジーと共にある写真の歴史は、光の情報を定着する支持体を金属、銅、紙、ガラス、フィルム、イメージセンサーへと変化させ、現在ではフォトショップによって変成イメージを探求するルーカス・ブレイロック（１９７８～）やアーティ・ビエカント（１９８６～）、さらにインターネットからの画像や衛星写真を用いた制作から三次元の空間でフォトグラム・光の造形を制作するトーマス・ルフ（１９５８～）がその変成の表現を用いています。
「ホモ・ルーデンス」遊戯が人間活動、生活に意味を与える文化を生み出す根源だとする言葉があります。現在のデジタル変換された写真はコンピュータ内で変成の遊戯を可能にさせた新しいイメージとして創出されます。空想的な架空の「林檎の変種」（変成）をみせるこの表現は、デジタルイメージとはなんであるかを考察した遊戯実験なのです。
デジタルカメラ、コンピュータというテクノロジーは、それまでの写真概念の更新を醸成しています。これらを意識した表現が現代の写真による芸術またはアートの課題とも考えられるのです。凡庸な林檎を撮影し空想的な変成を見せるこの作品は、見解によっては人間活動の根源である遊戯を表現する「コンテンポラリーアートとしての写真」に接近した態度の作品なのです。
参考文献：後藤繁雄、港千尋、深川雅文『現代写真アート原論』、フィルムアート社、２０１９年、：後藤繁雄『アート戦略・コンテンポラリーアート虎の巻』シナノパブリッシングプレス、２０１８年、：シャーロット・コットン『現代写真論』大橋悦子・大木美智子（訳）晶文社、２０１６年、