Not everything you see is always true.
写真家 丸谷嘉長 / モデル 森岡豊
青森
遡ること10年ほど前、津軽三味線の演奏を耳にした。
艶やかで切なく、楽曲のようで叩き声のような響き。
それは、胸の奥に詰まる何かを洗い流してくれるような爽やかさがあった。
妬みや嫉みの感情までもが、変調する旋律から感じとれる。
ふっと亡くした父さんを思いだした。
柔らかくも厳しい、愛憎にも似た感情。
そんな思いを抱いて撮影の旅に出た。
冬の津軽の天気は、雨が降ればいきなり晴れる。
地吹雪かと思えば真空の静寂さが訪れる。
津軽じょんから節そのものだ。
訪れたことがない場所に、父さんとの思い出を探しながら奥へ奥へと向かう。
津軽三味線の音色はビジュアル的である。
失った時間を取り戻すのが写真だ。
津軽平野の重たくも優しいフィールドに触れたとき、父さんから頭を撫でてもらった気持ちになった。