西風 #3
丸谷嘉長 ゆり
大河に一滴があるように、 写真を撮ることにも必ず始まりがある。
対象と向き合い、
外側を見て内側を探り、
起伏や凹みをなぞり、
細部に入り込む。
その者にしか宿らない秘密を掬いあげるために。
わたしはこれまで、どれほど多くの儀礼をくぐってきただろう。
それでも、新たな存在とのセッションは、
経験値だけでは到底到達できない未知の道程である。
機械を介し、光学を用いる行為は、
本来、意思がなくても
フィジカルな動作だけで
画像を定着させることができる。
それでもなお、写真を撮るという行為は、
わたしにとって必然であり、必要である。
一滴から始まった流れは、やがて濁流となり激しさを増す。
溺れぬように、流されぬように、
欲しいものだけを掴むことに集中し、
穏やかな岸辺をめざす。
まだ何者でもないこの若者も、
新たな場所を求めて、
始まりのこの場所から歩み出す。
希望と不安を抱え、それでも今を力強く生きるその姿こそ何よりも尊いとわたしは思う。















