「写真を撮ってほしいんです!」
カメラマンの丸谷嘉長さんにそう話したのは、今年のお正月だった。
「5月8日が私の二十歳の誕生日なので、
19歳から20歳に変わるときを撮ってください」
失礼だったかもしれないけれど、そのときの私は必死だった。
女優を目指そうと思ったのは小学校6年生のとき。
勉強もスポーツも特にできるほうではなく、目立つことが苦手だった私が、
学芸会で発表する劇の主役に手をあげたのは、自分でもその理由がわからない。
“最後の学芸会”という感傷にひたっていたからかもしれないし、
仲のいい友達2人が立候補したから、それにつられただけなのかもしれない。
でも、理由はどうであれ「この役はどうしてもやりたい」という強い気持ちがあったことは確か。
だから、学校が終わると家で台本を読みながらメチャクチャ練習した。
これまで、自分から何かをやりたいと言い出したことがない私だけど、
このときだけは“自分からやりたい”“自分から頑張る”という気持ちになった。
そして、クラスで行なわれたオーディションで選ばれて主役の座をつかんだ。
劇が終わると家族や友達から褒められた。
「良かったよ」「がんばったね」
人から認められたことがうれしかった。
「お芝居って楽しいな」「女優さんになりたいな」
私はこのときにそう思った。
自分が変わった瞬間だった。
私は今、漠然とした自信を持っている。
「2020年の自分は大きく変わる」と。
2018年、2019年の自分はもがいていた、迷っていた。
目の前にある仕事をするだけで精一杯だった。
自分から前に進めなかった。
でも、2020年は違う。二十歳になる2020年は違う。
だから「写真を撮ってほしいんです!」。そう手をあげた。
でも、私の誕生日に撮影することはできなかった。
撮影ができたのは緊急事態宣言が解除された後。
丸谷さんから言われたテーマは「コペルニクス」。
「落ちている石ころや葉っぱをちゃんと命だと思ってほしい」
「自分ひとりで存在していると思わないでほしい」
そう説明された。
「どういうことだろう?」
寝転がりながら雑草を見る。
コンクリートの隙間から生えている。
よく見ると葉っぱに毛が生えている。知らなかった。
同じ色に見えていた葉っぱも、それぞれ色が少しずつ違っている。
これまで見ていた景色と見え方が変わってきた。
「コロナで何か変わった?」と聞かれた。
コロナの前は努力することが一番大事で、いつも頑張らなきゃいけないと思っていた。
楽しいことをするのは、その後だと思っていた。
友達と会って遊ぶ、旅行に行く、お洒落をする……。
そういう楽しいことは、仕事がちゃんとできてからだと思っていた。
でも、好きな色でネイルを塗ってみたり、
ファッション誌の自分の好きなページを切り取ってスクラップブックに貼ってみたりすると、
自分の心が満たされて、生活が豊かになることが感じられた。
そして、楽しいことをすると心が喜んで、もっとお仕事を頑張ろうという気になった。
だから、今回の撮影も楽しむ気持ちで溢れている。
もし、私の誕生日に撮ることになっていたら、「変わらなくちゃ」と自分を追い込んで違った写真になっていたかもしれない。
「2020年の自分は大きく変わる」と漠然とした自信を持っていた私。
本当に大きく変わった。いろいろなものが変わった。
小野莉奈「コペルニクス」
【モデル】 小野莉奈
【ロゴデザイン】 尾原史和
【インタビュー】 村上隆保
【撮影】 丸谷嘉長