北馬南鳥#3

写真家 丸谷嘉長 / モデル


















北馬南鳥





「カッコつけるな!」「オーラをまとえ!」





「いろんな表情がある無表情が一番強いんだ!」





撮影でこんなことを言われたことは一度もなかった。





走った! 走った! とにかく走った!





叫んだ! 叫んだ! 大声で叫んだ!





転がった! 転がった! 何回も転がった!





撮影でこんなに激しく動いたことはこれまでなかった。





普段の僕は、これほど情熱的ではない。





家の中でひとりボーッとしているのが好きな





どちらかというと、おとなしいほうの人間だ。

























沖縄の出身。





高校3年生まではサッカーが人生のすべてだった。





だからといって、プロのサッカー選手になれるほどの実力でもない。





「これからどうしよう」と考えたとき、





「このままずっと沖縄にいるのは嫌だな」と思った。





一度、沖縄を出てみたいという気持ちになった。





福岡の大学に進学した。でも、ここも違った。





「沖縄を出て環境を変えれば楽しいことがあるはずだ」と思ったのに、





それまでと生活はあまり変わらなかった。





高校生の時に自分のなりたい職業を調べるという授業があった。





その時に選んだのが俳優だった。





理由は特にない。





きっと、その時に見ていたドラマに大好きな小栗旬さんが出ていたからだろう。





そんな軽い気持ちで選んだのだ。人生なんてこんなものか」と思っていた時に





現在、所属している事務所のオーディションが福岡で行なわれるという話を聞いた。





「合格すれば東京に行ける!」東京に行けば何かが変わる!」





福岡に違和感を感じていた僕は、大学1年の春にオーディションを受けていた。





大学を辞めて上京。





思い描いていた東京とは全然違った。





「東京に出てくれば何かが変わる」と思っていたが、居場所が変わっただけで人生は変わらなかった。





東京に出てきて1年。





「自分が変わらなければ、人生は変わらない」ということが、やっとわかった。





本音を言えば、沖縄に帰りたい。





でも、今のまま帰っても何も変わらない。





カッコをつけていられない。





もう、自分の中では決めている。





多くの人に自分の名前を知ってもらうまでは、沖縄には帰らない、と。帰れない、と。





























「越鳥南枝」





越の国(南)から来た鳥は、故郷を思い南に延びている枝に巣を作る。





これは「故郷を思う気持ち」を意味するという。





「南船北馬」





中国では南方は川が多いので船で旅をする。北方は山が多いので馬で旅をする。





これは「絶え間なく旅をする人」を意味するという。





「北馬南鳥」





この作品につけられたタイトルだ。





これは「北まで絶え間なく旅をしてきて、南の故郷を思う男」という意味だ。





僕の名前とシンクロしている。この作品のために作られた言葉だと教えてもらった。









モデル 南北斗(みなみほくと)





インタビュー 村上隆保





ロゴデザイン 坂下晶夫





撮影 丸谷嘉長