鎌滝恵利 interview

写真家 丸谷嘉長 / モデル






鎌滝恵利×小林淳一





小学校3年生から中学3年生くらいまで、まったく学校に行っていませんでした。いわゆる引きこもりですね。人前に出るきっかけがレースクイーン。引きこもりからレースクイーンって急すぎますよね(笑)。人とそもそも話すことすらできないのに、大勢の人にカメラで撮られている自分がそこにいる。ただ、はじめて「人が自分を見ている」という女性特有のゆがんだ感情はあったかもしれません。自分では快感だとは思っていないつもりでしたが、どこかで喜びのようなものがあったのかも。当時15歳のレースクイーンって珍しく、テレビで取り上げていただき、それがモデルの道へと繋がっていきました。





でも、モデルの仕事をやってみたら思うように出来ず、自分は役者の方が向いているのかと思って。20歳の時、演技の学校に行きました。もともと裏方をやりたかったんです。引きこもりの時、エンタテイメントは好きでよく見ていて、女優さんって、綺麗だな、と憧れていました。ただ、出る方ではなくて、その人を綺麗にする方に回りたいと思った。メイクの仕事に憧れたり。裏方に憧れて、芝居の学校に入るっておかしいですよね。でも、エンタテイメントの現場に近づきたかったんだと思うんです。





そうしたらハマってしまって。芝居で自分を出すという前に、演技を心理的に考えていくとか、人はどうやって変わっていくのか、とか、そういうふうにモノを考えていくことがもともと好きだったんですね。そうするうちに芝居に興味がもてた。これは映画を観ないといけないと思いました。ちょうどいいやと、映画館でアルバイト。映画も見られるし、バイト代も出る、一石二鳥だなって(笑)。その劇場は、アート系からわかりやすいエンタメまでなんでもやっていたので、貪るように映画を観ていましたね。





事務所にも入らず、履歴書を書いて、オーディションを受けるようになったんです。結果として受かったのが映像系の仕事でした。それが舞台だったら、もっと舞台女優のような活動をしていたかもしれません。









15歳の時からずっとノートをつけています。日記ではないのですが、思ったことを書いていて。まだ、映画を好きになる前に見たのが「愛のむきだし」でした。そのノートに「園子温さんと仕事がしたい」って書いていて。びっくりですよね。裏方の気持ちだったかもしれないけれど、その現場に行きたい、と10代で思っていたら、叶ってしまった。





自分で言うのも変ですが、流されている人生だし、一方で願いはかなっている人生。不思議ですね。いま、25歳になって、15歳でこういう世界に入って10年だな、と。これからの10年、どうしようか。ちょうど節目だと思いました。





そこで写真を撮ってもらいたいと思ったんですね。ある日、お仕事で行ったある会社の入り口にバーンとあったのが広末涼子さんの写真で。この写真家さんに撮ってもらいたいって思いました。それが、丸谷(嘉長)さんでした。





失うものは何もないので、とにかくすぐにメールで連絡をして。「10年使える宣材写真を撮ってください」と。力が強い写真。人生で数枚ある写真。古くならない写真。これからこの10年、これで戦うわという武器になる写真。





お願いしたら、すぐにやっていただけるという返信をいただいて。切羽詰まったところが伝わったんですかね(笑)。本当にすぐ返信いただけました。「おいくらですか?」ってお尋ねして。自分でバイトして払おうと思っていたんです。そしたら「お金は要らないです」と。本当に嬉しかったですね。





写真、ちょっと嫌いだったんです。撮られるのも嫌いだった。でも、映画もやってみて、節目の2020年で、苦手意識を払拭しようと。それを克服したいと。撮影は1泊して、2日間。メイクもつけていただいて、キャンプみたいな感じでしたね。





撮影のコンセプトのようなものが書かれた紙を渡されて、その文章をみて勝手に自分の中でイメージつくっていっちゃって、やってみたんです。やった瞬間に丸谷さんがひいたのがわかったんですよ。





やばいな、全然違ったんだな、と思って。丸谷さんがその瞬間に「こび売るなよ」って言われて。「わたし、こび売ってないじゃん」って思ったんだけど。でもよくよく考えると、





確かに場にあわせてしまう自分がいる。相手に阿っちゃう自分がいる。きっと怖いから。





「こび売るな」という言葉がこれまでの自分の人生にずどーんと、当てはまったというか





そういえば、以前も映画の撮影現場でそういう事があって、損したなと思うことがあったので。この写真の現場でそのことがわかった。





生きる癖だと思うから、そんな瞬時に直せるのか、わからないけれど、すごいおっきな、“ああー”みたい感じがあった。









これが女優として生きていく、ということ。一般のいい子でいなきゃいけないという生き方との決定的な違いで、このダメな自分を捨てない限り、もうずっと同じことが繰り返されるな、って思ったんです。









撮影現場ではずっと悩んでいました。そしたら、ヘアメイクの佐藤寛さんがすーと近寄ってきて「さっき海見てたでしょ、あの顔がすごくよかったんだよ。あのままでいいんだよ」って、ぽそぽそと言ってくださって。「あ、そっか、それでいいんだ」って思いましたね。救われたし、何かがみえた。





自分の中でいっぱい考えていて、これがいいと思うことが、人がいいと思う方に向かう思考だったのかもしれない。それは阿ってしまっているということ。そこにただいる、ということが大事。「いまの君がうつればそれでいい」と言われて。そこに映ったのがいまのわたしだから。





「そのままでいろ」って丸谷さんに言われた。そのままでいることを、もっとやらなきゃもっとやらなきゃ、って思ってしまう。“そのままでいる”がわからない。





いまのタイミングが分岐点。外に出るようになってから10年。役者をはじめてから5年。





人の目を見るのが苦手だったんですよ。だから、すごい人の目を見るんです。普通でいることがわからな過ぎて、どこか戦闘態勢みたいなものに入っちゃって。顔がゆらいじゃう。出すのが怖いんでしょうね、きっと。だから取り繕って生きてきた。丸谷さんに「顔が安定していない」と言われて。その場、その場で、顔をつくってきた。それを、丸谷さんに今回の現場で見透かされた。





いい経験ができました。きっかけをいただいた。





いままでの10年は、そのままでいることができなかった。ここからの10年は絶対できる。もう25だし、どう見られてもいい。知らぬ間にそこに行っていて、びっくりする自分がいる。





自分がどこに行きたいか。すこし、わかってきました。

















【モデル】鎌滝恵利…女優。1995年4月7日生まれ。
NETFLIXオリジナル映画作品「愛なき森で叫べ」、映画「子どもたちをよろしく」、FODオリジナルドラマ「30禁 それは30歳未満お断りの恋。」他多数





【インタビュー、文】小林 淳一





【ヘアメイク】佐藤寛





【撮影】丸谷嘉長